長坂:
話をしながら思ったのは、できるだけ
オーソドックスな形で、ディテールにはこだ
わると思います。もしくは、それよりもドアを
開けたときの喜びをデザインするかもしれな
い。ただ、使う側はこちらが意図したことを
忠実に受けて、そこで立ち止まらなくていい
と思うんです。「言われてみたら、うちのレ
バーハンドル良いかも」くらいのレベルで、
人の家に行ってようやくその魅力がわかると
良いなと思いますね。
倉本:
言われて初めて気づくというような
ものの良さをどう伝えるか考えたときに、
コンビニで売っている水を思い浮かべたん
です。コンビニで水を選ぶとき、厳密には
パッケージやボトルのデザインを意識しま
せんよね。ペットボトルのデザイン自体が判
断基準となっているわけではなくて、そこに
デザインが潜んでいるくらいのレベルで実は
影響している。そんなプロダクトをつくり
たいなと思いますね。
ディテールを積み重ねること
長坂:
僕も
プロダクト
と呼ばれるようなも
のを手がけることもあるのですが、
プロダ
クトデザイナー
と仕事をしていると、
スケー
感の違いを明らかに感じますね。建築は、
どちらかというと幾何学的な形状に閉じて
いってしまう可能性がある。一方で
プロダ
クトデザイナー
は、良い意味でも悪い意味
でも、僕がこれ以上細かいものに善し悪しの
判断をできないと思う領域に入り込んで深
めていく作業をしていますよね。
倉本:
考え方や
アプローチ
が異なる部分と
いうのは、お互いあるかもしれませんね。
warm
は、
ディテール
の集合体で雰囲気を
つくっています。外形の細かい形飾を積み
重ね、削っては精査するという作業を繰り返
してこの形に至っているんです。もっと大き
スケール
で設計を行う建築家にとっては、
かなり細かいところの判断をしているように
見えるのかもしれませんね。
長坂:
プロダクトデザイナー
の形状に対する
目線の配り方は、横目で見ていてくらくらし
ますね。意味や記号を自分で開発していか
ないと、その差異が出てきませんから。
倉本:
僕も毎回悩んでいるのですが、結局は
ものの
ディテール
の積み重ねが調和を見つ
けたときに全体としての強い記号性が表出
してくるんじゃないかなと考えています。
長坂:
僕が、頭の中で形を想像するときに、
普段、慣れ親しんでいる
デザイン
の延長では
つくり出せない幾何形態が確かにあって。
柔らかな曲線で構成され、ハンドルの絶妙な握り心地が特長の「warm」シリーズ。その人
なつこい佇まいから生まれる雰囲気そのものをデザインした、プロダクトデザイナーの倉本
仁氏。そして、素材の質感を生かし、そのものの美しさを引き出すような建築やプロダクト、
インテリアなどを手がける建築家・長坂常氏。プロダクトと建築というスケールの異なる
ものを設計するおふたりに「warm」に触りつつ、その設計プロセスの違いについてお話い
ただいた。
13
DIALOGUE 02
プロダクトデザイナー
倉 本 仁
建築家
長 坂 常
×
優しさという記号をデザインする
長坂:
こうやって実際に「
warm
のレバー
ハンドルを触ってみると、すごく握りやすい
んですね。それに、角が立たたないようなデ
ザインになっていますから、これを扱いたい
というディベロッパーは多いのではないで
しょうか。また、改めてお聞きしたいのです
が、「
warm
はどのようなコンセプトでつ
くられましたか?
倉本:
warm
をつくる上で僕に与えられ
たテーマは「ものから発信して空間へと向
かっていくこと」でした。そんな流れから、
人や空間に与える印象を大切にしたいと考
え、物質的な存在感よりも「優しい感じ」や
朗らかな感じ」などの雰囲気そのものをデ
ザインしたいなと考えました。
長坂:
なるほど。建築家は、できるだけ空間
に溶け込むようなものを選ぶ傾向にあります
が、このレバーハンドルは、ドアのデザインを
想像させるような個性がありますよね。それ
も興味深い。レバーハンドルから建築を既定
していくような、ある種の力強さがあります。
倉本:
レバーハンドルがドアを決めるという
のは、おもしろいですね。ただ、おっしゃる
ように建築の一部として調和することが求
められるプロダクトですから、少し主張が強
かったのかもしれません。長坂さんがレバー
ハンドルをデザインするとしたら、どんなも
のをつくりますか?