言うと、根本のビジョンの構築に失敗した
場合、市場に出るまでその失敗に気づきに
くいという側面もあります。
長坂:
工業デザインの難しいところですね。
建築の場合は、できるだけリアリティある人
たちを設定した上で、そこから広がっていく
「
みんな」であればわかるけれど、漠然とした
「
みんな」に向けた建築では何の意味も持ち
えない。「みんなって誰のことだ」っていう
議論になりますよね。
倉本:
僕たちが判断する時も、「みんな」とい
う言葉を使うのは避けていますね。「これが
一般的だから」という理由で決めてしまうと
結局、誰のためでもないものが出来上がっ
てしまうんです。それよりも、少なくとも自
分はこれが良いと感じている、その確実性は
大事にしたいところ。
長坂:
そうですね。ただ、レバーハンドルっ
て、日本に導入されて、まだ何十年も経って
いないんですよね。日本に西洋の建築文化が
入ってきてからのことなので。そう考えると、
建築全般に言えることですが、価値判断が
まだ定まりきらない状態にあるんじゃない
かと思うんです。だから、レバーハンドルに
おいても本当の意味で定番だと呼ばれるもの
が出てくるのは、きっとこれからなんですよね。
倉本:
そうかもしれませんね。これから「私
はこのレバーハンドルが好き」とそれぞれ
がジャッジできるような仕組みや批評的な
眼を育てていくような環境がつくっていけ
たらおもしろいですね。僕たちプロダクト
デザイナーは、逆に、そういう新しいスタン
ダードになるものを生み出すべく模索しな
がら、ものづくりに励んでいくことになるの
だと思います。
それは
「
warm
」
の
ハンドル
にも言えることで
すが、なぜその形になったか、自分の口で
説明できない
モックアップ
をたくさん見れば
その部分についての判断はできると思うん
です。ただ、それが無いところでは、今座って
いるこの
イス
のうねったような形態がなぜ
この形なのか、
プロダクトデザイナー
のよう
に判断し、言語化することは非常に難しい。
倉本:
幾何形態では判断しづらい、うねりみ
たいなものも僕は記号のひとつとしてとら
えられると思っていて。例えば、手塚治虫は
「
漫画は記号で、絵ではない。人の後ろに線
3
本書いたら、走り出すから」というような
こと言っています。ここでは、
3
本線の形状
が記号として作用しているのではなくて、そ
の線が置かれた位置や状況、文脈の組み合わ
せが記号性を生んでいる。
プロダクト
におい
ては
ディテール
の積み重ねで形状をつくる
ことで誰もがわかるような記号になり得るの
だと思います。
これからのスタンダードをつくる
長坂:
レバーハンドルのデザインにおいて、
スタンダードなものを考える上で、ひとつ問
題だと思うのは、使う側が「これは良いハン
ドルだ」という適切な判断をできないこと
です。個人宅のオーナーは、基本的に一生の
うち
1
回くらいしかハンドルを選ぶ機会っ
てないと思うんです。そういう意味では、
その
1
回の選択が本当に適切な判断かどう
かは疑わしいですよね。
倉本:
プロダクトをデザインする者として
話すと、基本的には不特定多数に向けて商
品をつくる場合が大半なんです。だから、特
定の誰かのベストをつくるという構築方法
とは違うのかもしれません。
20
万個売れる
商品をつくる場合において、それを使う相手
が具体的に見えるかというと難しい。ただ、
「
かくあるべき」というビジョンを明確に持
ち、そこに向けて徹底的にものづくりをし
ていくという姿勢が成功した場合、多数の
共感を得るプロダクトが生まれます。逆に
14
1976
年生
まれ
。
金沢美術工芸大学卒業後、家電
メー
カー
勤務
を
経
て
、
2008
年
JIN KURAMOTO STUDIO
を
設立。 家具
や
家電製品、日用品等
の
製品開発
を
中心
に
国内外
のクライアントにデザインを
提供
し
ている
。
IF Design
賞、
Good Design
賞等、受賞多数。
倉本仁
/
Jin Kuramoto
arflex armchair / JK
naft
壁掛
けフック
/
Sprinkle
1971
年生
まれ
。
1998
年東京芸術大学美術学部建
築学科卒業。同年、
スタジオスキーマ
(
現
スキーマ
建築計画)開設
し
、
ギャラリーなどを
共有
するコラ
ボレーションオフィス
「
happa
」
設立。
2007
年事
務所
を
上目黒
に
移転。簡単
な
原理
を
誰
も
想像
でき
ない
方法
で
表現
した
作品
を
多
く
発表。
長坂常
/
Jo Nagasaka
Aésop Aoyama
photo:Alessio Guarino
LLOVE
DIALOGUE 02